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経営や趣味、時事などのブログ記事や、Podcastの発信を日々行なっています。ニュース登録をしていただければ、更新情報を配信していきますのでお気軽にご登録ください。(広告を配信することはありません)
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【エピソード概要】
トリニティ史上最大のプロジェクト、スマートフォン「NuAns NEO」はわずか7人の個性豊かなプロフェッショナルチームで開発された。
バッテリーライフを最優先した独自の設計を貫き、当時の常識を覆す厚さを採用。
中国でのODMとの交渉、最低発注数量の壁、日本市場特有の難関である技術基準適合証明の苦難、さらに、ICカードの残高をホーム画面で確認できる専用アプリ「TriCa」の開発など、徹底したユーザー視点を実現した開発の軌跡を紹介。
「Podcast:リアル経営」このエピソードに関するご意見・ご感想をぜひお寄せください。今後の配信の参考にさせていただきます。
リアル経営|企業経営の成功と失敗、等身大で語る台本なき社長のリアル」
この番組は、私、Hossyこと星川哲視が自らの体験をもとに、経営やその舞台裏などをリアルに語っていきます。
リアル経営は、毎週金曜日朝6時に配信しています。
おはようございます。自由人のHossyこと星川哲視です。
おはようございます。STRKのがじろうです。
はい。前回はですね「NuAns NEO」。僕の人生の中でも、そしておそらくトリニティの20年間の歴史の中でも一番と言ってもいいくらい大きなプロジェクトであるスマートフォンの開発・販売について、その始まりの始まりをお話しました。
スマートフォンを作ったので、さすがにたくさんのメディアから取材していただいたんですけれども、もちろんメディアも要点だけを書いていくところもありますし、僕自身も細かい話をそこまでしていないので、今回お話しするようなところはオープンにしてこなかったことも非常に多いと思います。
はい。
ただ、聞いてもらってる方が面白いのかな? こんなちっちゃい話はどうでもいいよっていうことにもなるかもしれませんけれど(笑)
いやいやいやいや。
楽しんでもらえるなら嬉しいです。というわけで、今回2回目。
前回がきっかけと決断するまでのところですよね。
はい。そうですね。前回がじろうにも宿題をもらっていて。
その市場としては面白いなっていうのと、あと実は簡単にって言うと失礼かもしれないけど、思ってたよりかは簡単に作れるという土壌が整っていたと。じゃあ作ろうという話までは聞いたんですけども。とはいえ、それを実行するにあたって、どれくらいの金銭的リスクやリターンを求めていたのか、といったあたりをお伺いできたらと思っています。
そうですね。宿題といっても、家に帰って何かをするというものではないのですが、これはね、がじろうが経営コンサルタントという仕事をしている上では、数字にこだわるというところがあるとは思うんですけれども。
実際問題、以前にお話しした次元シリーズの時もそうですし、ここまで話していたNuAnsのブランドの立ち上げの時も同じなんですけれど、NuAns NEOのプロダクトをやる時も、リスクの計算というのは、実はあんまり考えてスタートしていないんですよね。
へぇ〜。
もちろん、スマートフォンは、トリニティがこれまで手掛けてきた製品の中でも、いわゆる原価、つまり仕入れ価格が一番大きく、販売価格も高額です。実際、トライはしましたが、作ったけれど売れなかったというダメージは、今までで一番大きいと思います。
実際スマートフォンのケースや保護フィルムだけで言えば、たとえば1,000円、2,000円で売られているものの原価は数百円だったり、1,000円を超えると市場では高すぎてなかなか売れない、という程度でした。それらが売れ残るリスクは金額にすると大したことはなかったので、本当にどんどんチャレンジしていってもよかったな、というところはあります。
まぁ、NuAns NEOの場合は、「売れない」ということをあまり考えていませんでした。普通は、ベストシナリオやワーストシナリオ、損益分岐点などを計画の中で綿密に立てると思うのですが、次元の時も、NuAnsの通常プロダクトの時も、そしてこのNuAns NEOの時も、そこまで深くは考えていなかったんですよね。
撤退ラインというか、「これ以上大きくなると経営が危なくなるから、ここまでには抑えよう」といった基準もあるんですか?
明確な数字というのはなくて、実際には原価があった上で、一番のリスクは製品在庫ですね。
うん。
それに関連するところで、以前もちょっとお話ししたと思いますが、MOQ(Minimum Order Quantity)という最低発注数量があります。スマートフォンにおいては、この最低発注数量と単価原価を掛け合わせたものが、どんなに転んでも一番大きなリスクになり得る金額になるだろうと思います。
これは実際には1億5000万円から2億円弱といった原価のところがあったと記憶しています。最悪の場合でも、1台も売れないということは想定していなくて、7〜8割は売るつもりでしたし、これまでそんなに売れないという経験がなかったので、初回でしっかり売り切って、それ以降は利益貢献していくというイメージでいました。
うん。
今回の開発費はそれほど大きくありませんでした。もともと10周年記念のプロダクトとして、1,000万円、2,000万円くらいはかけてもいいのではないかという考えがありました。
最初は考えてたんですね。
はい。結局、その製品が世の中の人の驚きや面白さ、欲しいという気持ちに響くものができたとしたら、広告宣伝費に換算して2,000万円かかっても、それに見合う効果はあるだろうと考えているんですよね。
実際はちょっと別の回でね、本当にお話ししたいなと思いますけれども、トリニティって今までに広告宣伝費っていうのはほとんどかけていないんですよね。かけるとしても広告宣伝費っていうカテゴリーに入っているのは、WEBとかのデザインとか改修の費用で、純粋に広告を出す費用っていうのはほとんど使ったことがなかったんですよね。
うん。
それよりも、我々が面白いものを作ることで世の中で話題になったり、メディアに取り上げられたりすることができたとすれば、それがもう広告宣伝になると思っています。
今回スマートフォンを作るという話には、自分としてもすごくワクワクしましたし、Windows 10のPCとモバイルの融合といったものも、始める時にはもちろんゲームチェンジャーになり得ると考えていましたし、思っていたよりもマイクロソフトが用意してくれていたプログラムは、「何をしていいか分からない、どこから作り始めたらいいのか分からない」というほどでもなかったので、これなら最終的にはすごく面白いものになると感じていました。
売れないリスクはもちろんあるとは思うのですが、僕は売れると思っていました。
いや、これ結構ポイントかもしれないですね。新規事業ってなかなかうまくいかないってよく言われてるんですけど、成功確率が1%とか3%とかで。ほぼほぼの理由が、創業者が担当するのではなく、一担当者がやると、おそらくオーナーは「どれくらいのコストがかかって、どれくらい回収できるんだ?」と細かく聞いてくるでしょう。
そうすると、どんどん安全策を取るようになり、結果として面白くないバントのような新規事業になって、差別化ができずにうまくいかない、というケースが多いと思うんです。やはりこれくらいざっくりと進められないと、新規事業はなかなか成功しないのかもしれませんね。
そうですね。やはり創業社長として、自分でお金を投じて会社を立ち上げたわけです。もし万が一、このプロジェクトがまったく売れずに大きな損失が出て、最悪の場合、倒産という事態になったとしたら、その責任は株主であり社長である自分に返ってきます。ですから、新規事業においては、ある程度のオーナーシップがなければ難しいのかもしれませんね。
これがもし社員の企画だったら、もっと細かく精査されていた可能性もあるでしょう。しかし僕としては、そこも含めて、先ほども言ったように、実際、まったく売れないとは思っていませんでしたし、たとえトータルで1億5000万円から2億円くらいのマイナスになったとしても、トリニティという会社が傾くほどの事態ではないと考えていました。
10周年記念としての事業ですからね。10年間続けてきた上で、利益を積み重ね、きちんと税金も払った上でキャッシュも残していました。万が一、このプロダクトがうまくいかず、本当に1台も売れなかったとしても、トリニティという会社自体の基盤が揺らぐほどではないという皮算用があった上でスタートしたというわけです。
はい、ありがとうございます。
スタートするにあたって、まずお話ししておかなければならないことがあります。僕自身は技術者でもありませんし、これまでものづくりを積極的に行なってきたわけでもありません。そのため、一緒に活動してくれる仲間を増やしていく必要があると考えていました。
まず、どうしても最初に出てくるのが本田雅一さん。
はい。
本田雅一さん、言い出しっぺで「やってみたら?」っていう感じでね、言ってくれたし。僕なんかと比べればこの業界めちゃくちゃ長くて、PC自体もそうだし、Windows、マイクロソフト、もちろんiPhoneもAndroidも含めてずっと取材したり、いろんな深掘りをしてきた方なんで、本田さんをまず引きずり込んでやっていかないと、このプロジェクトは難しいだろうと思っていました。
はい。
僕自身も、コンシューマー、いわゆるユーザーとして「こういうスマートフォンが欲しいよね」という明確なイメージがいろいろあって、どんどんキーワードを書き出していきました。それを本田さんと一緒に詰めていく中で、本田さんも良い、僕も良いと思ったら、まあ大体良いんじゃないかという感じでしたね。
本田さんももちろん技術者というわけではないので、最終的に市場を知っていたり、テクノロジーを知っている本田さんと僕とで、こういうものというコンセプトのコアな部分を決めた、というところです。
はい。
本田さんはそういう意味では、このNuAns NEOのプロジェクトに参加されるというのは、かなりリスクだと思います。特にここ最近はネットの炎上などもありますね。当時はそこまででもありませんでしたが。とはいえ、本田さんはジャーナリストとして活動されているわけですよね。
今回、我々のスマートフォンの製品にコアメンバーとして携わったとすると、他のメーカーのスマートフォンの批評やレビューがしにくくなるのではないかと。たとえば、我々がスマートフォンを出した後、もちろん他のメーカーも出してくるわけですが、その時に本田さんがご自身の記事で、Windows 10 Mobile端末の様々なラインナップが出てきました、という中で他社の製品を批判したりすることが難しくなると思うんですよね。
うん。
だって、自分たちで作っている製品が横に並んでいるわけですからね。Windows 10 Mobileという小さな枠の中だけではなかったとしても、もしかしたらiPhoneやAndroidなど、同じスマートフォンというカテゴリーで製品を出しているところに関わっていると、書き手としては難しいというか、やりにくくなるのではないかなと思っていました。
叩かれる可能性が。
そう。叩かれるというのも結果としてあるのかもしれません。僕が外から見ている限り、本田さんはものすごく信念や芯がしっかりとした形で記事を書かれている方なんです。主観が入っている記事が非常に多い。もちろん、取材して客観的事実を積み上げているのですが、それでもやはりしっかりとした主観がある。
そこで今回関わってしまうと、生業としてやっている物書きのこの領域においては、かなりやりにくくなるだろうなと思っていました。
うん。
もちろん、「こういう話があって、こういうリスクがあるんじゃないか」という話はさせてもらったのですが、僕の記憶が正しければ、割と「大丈夫」と軽めに言っていたので。本田さんは重いことも少し軽めに言ってくれるタイプなので、「本当なのかな」というのは若干あるかもしれないですけれど、本田さんも作ってみたいという気持ちがあったのかもしれません。
そういったリスクに関しては問題ないということだったので、本田さんに入ってもらいました。
うん。
トリニティでやってるんですけど、いきなり本田さんという外部の人を最初のメンバーとして迎えました。社内では僕ともう1人いて、2人でやってました。ニックネームでいうと、あさすけって女性なんですけれども、その彼女が僕と一緒に、このNuAnsのプロジェクトに携わってくれました。実は彼女も開発経験があるわけではないのですが、無理やりではありませんが、巻き込むような形でやってもらっていました。
はい。
あとは、中国ではソフィアというマネージャーがずっとやってくれていました。トリニティとしては、日本にいる僕を含めた2人と、中国のソフィアという体制で活動していました。(現社長の)洋平にはもちろんヘルプをお願いすることはありますが、今回のプロジェクトは通常のトリニティの営業活動とは別だったので、リソースを割けないという事情もあったんです。
なるほど。
洋平や開発チームは通常のアクセサリーで手一杯という状況でしたし、当時、事業がどんどん伸びていた時期でもあったんです。それで、僕らだけでこのプロジェクトを進めようということになり、社内では3人ですかね。はい。そして本田さんがいて。
デザインに関しては、ちょうどNuAnsが同時に進行していたこともあり、TENTとやるしかないと思っていました。だから、いろいろなプロダクトデザイナーと話してコンペをする、といったことは最初から考えていなくて、TENTの2人とやろうと決めていました。TENTの2人もNuAnsを手掛けていて、その次に「スマホです」と伝えた時は驚いていましたけどね。
やっぱそうっすよね。
はい。それで、ミーティングの時に「ちょっと次スマホやろうと思ってて、スマホをデザインしてもらいたいんですよね」と話したら、驚いた感じでしたね。とはいえ、特に印象に残ってるのは、治田さんがすごく乗り気だったこと。スマートフォンをデザインできる機会って、世の中にはあんまりないじゃないですか。
前回も話したように、大企業でたまたま担当になった人が何人かいるにしても、実際にスマートフォン作った人って少ないですよね。名前が知られてる人となると、本当にスティーブ・ジョブズしか思い浮かばないくらいですからね。
そうなりますよね。
少しおこがましいのですが、立場としてはスティーブ・ジョブズのような感じで。デザインといっても、「スマートフォンをデザインしました」と言って、それが今までにないまったく新しいものだとまで言えるデザイナーはやはり少ないです。
青木さんは、どちらかというと自分が本当に欲しいものを、自分が欲しい形でデザインしたいということが根底にあります。青木さんはiPhoneを使っていて、そこまで不満というわけではなかったのかもしれません。新しいスマートフォンに関して、「何ができるのかな」という点で、一瞬疑問が湧いたようでした。
しかし、僕の中ではNuAnsの延長線上の製品にしたいというコンセプトがあったので、そういう形でやりたいと思っていました。
やろうというところまでは決まった上で、僕と社内、そして本田さん、TENTというデザインやプロジェクト進行、企画はできても、まったく技術がわかる人がいないという話になり、このプロダクトが本当に実現できるのかという疑問が生じました。
ただ、僕の中では、もうすでにやろうと決めたときに思い描いている人がいて、この人がキーパーソンという意味では一番なくてはならない。全員いなくてはならないか。言い方が悪かったですね。全員欠かせないんですが、本当に僕には絶対にできないことをやってくれたという意味では、NuAnsのときに名前も出しているので言いますが、永山純一さんという、エンジニアと呼んでいいのかわからないスーパーマンがいます。この人は本当に天才なんです。
へぇ〜。
僕ももちろん、いろいろな人と出会ってきましたが、「これは天才だな」と思える人は少なくて。永山さんは昔からApple、Macの付き合いがあって、同じユーザーグループに所属したりもしていました。もちろん大先輩なのですが、実はTENTを紹介してくれたのもこの永山さんだったんです。
永山さんと僕は知り合いで、永山さんとTENTも何かで知り合いになっていて。TENTと何か話している時に、「スマホ関係をやっている人、知り合いにいますよ」という形で、多分紹介してくれました。それで永山さんが引き合わせてくれたというところで、僕とTENTの出会いも、この永山さんがつないでくれたからこそできていて、これがないとNuAnsもできていなかったんですね。
ほうほう。
永山さんはハードウェアのエンジニアでありながら、電気もソフトもできる。日本語も英語も話せて、ネットワークにも詳しい。さらに医師免許も持っているんですよね。
えっ?
はい。
いや、ほんまに天才っすね。
ちゃんと調べてなかったんですけれども、僕の認識では、永山さんは東大の医学部を出ています。東大の医学部といえば医師の中でもトップだと思いますが、医師免許を持っているにもかかわらず医師になっていません。「年を取ったらDr.コトーのように、医師として働くのもいいかな」ぐらいのことは言っていたことがありますけれど。
いずれにせよ、東大医学部を出てエンジニアをやっていて、しかも本当に何でもできちゃうすごい人なんですよ。本当に天才としか言いようがないと僕は思っています。永山さんに入ってもらうことになり、彼は最初に「Androidだったら嫌だ」と言っていました。スマホというと普通はAndroidになると思うのですが、「Androidは嫌だ」と。
そこで「ご安心ください。AndroidではなくWindows 10の話です。結構新しくないですか?」と、話したら、永山さんのような方は、これまでにない新しいものに対して、技術的な興味を強く持っているのではないかと思うのですが、彼は「それはちょっと面白い」と。僕も永山さんもApple、Mac仲間なのですが、なぜかWindows 10 Mobileが面白いということで参加してもらいました。
うん。
メンバーとしては、トリニティの3人と本田さんと永山さんとTENTっていう7人ですね。スマートフォンを本当に0から作っていくのを7人でやっている会社がどれぐらいあるのかは、ちょっとよく分からないですね。
ほぉ。
まずチームができた上で、実際に開発してくれる中国のODM(Original Design Manufacturer)という開発も製造も委託できる会社があります。これは、マイクロソフトが以前から話しているCTE(China Technology Ecosystem)という、中国で製造できるエコシステムを構築しており、マイクロソフトとライセンス契約をしている会社なので、そこを紹介してもらい、訪問するところから始まります。
ただ、実際すごい大手も紹介してもらったんですけれども、やっぱり大手ってどんなに頑張って交渉しても、最低発注数量っていうのが10万台みたいな感じで。たとえば原価が1万円ぐらいだったとしても。
10億円とかいっちゃいますよね。
そうそう。10億円とかですから、「これ、ちょっと失敗してもいいかな」というレベルにはならないな、というのが僕の考えでした。実際、僕の中では初回はやはり1万台ぐらいの規模で付き合ってくれるところを探していました。
うん。
Simplismの時にも台湾のおばちゃんの話をしましたが、今回も一人、今度はおじさんなんですが、とても面白くて理解のある人にたまたま出会うことができました。ノリもすごく良かったです。前回は台湾のおばちゃん、そして今回は香港の人で、中国の会社に勤めているのですが、香港から通っているような感じの人でした。
中国のODM企業には、自分たちで作っているリファレンスモデルがあるという話をしたと思いますが、基本的にはマイクロソフトと契約して何か売れるかもしれないという考えで、おそらく元々みんなAndroidを作っている会社で、面白そうだということで始めるのだと思います。まず自分たちでリファレンスモデルを作り、それを世界中の様々なメーカーに提供していく、という形でやっているようです。
僕も5、6社ほど回ったのですが、僕が話すと「この人、リファレンスじゃなくて全部一から作る気じゃん」という感じで、他の会社はすごく嫌がっていましたね。
めんどくさそう。手離れ悪そうだなと。
そう、面倒くさいんですよ。実際、そのリファレンスは作りやすいもので作るんです。なので、コストももちろん低くできるし、メーカー側が発注したらすぐ生産できるので、すぐお金になるっていうこともあるんです。だから、「やりたくない」っていうので返事が来なくなってしまったりとか。ピンチだったんですよ、実は。
へぇ。
僕はね、本当にリファレンスモデルをちょっと改造して作るっていうことは最初から頭になかったんです。「なんでみんな嫌がるんだろう」くらいの感じだったんですけれども、今思えばそういう形でしょうがないかなというところで。最終的に契約したさっきの香港のおじさんは、なんか話をして「面白いじゃん」って、「作ろう!」みたいな形になってくれたんです。
正直、その1社しかやってくれるところはなかったですね。なので、この出会いがすごく重要でした。他のところだと万が一やってくれるっていうところも10万台以上みたいなさっきの話になってきちゃって、さすがに作れないな、みたいなところがあったので、この会社が契約してくれたっていうところでやれることになったんですよね。
なので今回ですね、以前にもちょっと言ったと思うんですけれども、2015年の4月、5月くらいですかね。実際マイクロソフトの発表会があったのが10月なんで、5ヶ月後なんですよね。
すごい。
本当にもう苦労はしました。
うん。
特に永山さんが。もちろんTENTもデザインに関していろいろな提案をしてくれましたし、やはりそのデザインを実現するのがかなり難しかったんです。これも本当に今でも難しい技術を使って実現しているのですが、まずは永山さんのパートについてです。
僕がスペックや「こうだったらいいね」ということを全て書き出して共有しながら進めていたのですが、いくつか難しい点がありました。一つ目は、僕はiPhoneをメインで使っていたのですが、一番嫌だったのがバッテリーの持ちが悪かったことです。
はいはいはい。
当時ですね、朝100%充電して出かけても、もうお昼くらいにはなくなってしまって。充電できる場所を探したり、モバイルバッテリーを持ち歩いたりしていました。だからこそNuAnsでモバイルバッテリーを作ったのですが、そういった心配をしなくてはいけないんですよね。
今はiPhone 16 Pro Maxという一番大きいモデルを使っているのですが、これを使っているのはバッテリーの持ちがいいからなんです。画面が大きいから、というわけではないんですよ。それくらい、このモデルを使ってギリギリ朝100%から寝るまで持つんです。
でも、世の中のほとんどの人は、電車などで見るとわかる通り、電池がなくなってしまって充電していますよね。スマートフォンって、電池がなくなったらただの重りじゃないですか。
そうっすね。
ただ重いものを持っているだけで、画面も映らなければ操作もできないというのは、持つ必要性がないと思うんです。Appleはテクノロジーをどんどん進化させていく方向にありますし、他のメーカーも同様です。そのため、バッテリーライフよりも機能を新しくしていくことを優先します。
なので、性能は良くなっていくのですが、バッテリーライフはあまり伸びない傾向にあります。
しかし、僕はやはり1日安心して使えるスマートフォンであるべきだという、大きな柱が一つあったので、それを実現しようとしました。これは計算するのが結構難しいんですよ。
いろんなアプリ、どういうのを使うかで想定しないとだめですよね。
そのアプリを何に使うかというのもそうですが、電波の状態もかなり影響します。基地局から離れていたり、地下など電波が弱い場所だと、スマートフォンは電波を掴もうとバッテリーを多く消費します。iPhoneももちろん同じで、電波が非常に悪い場所にいるとバッテリーの減りが早いようですが、これは人によって差があり、固定で測ることはできません。
「持ちます」と言いつつ持たなかったら困りますし、圏外になるかどうかというのも難しい問題です。そのため、基本的には圏内にいる状態で、どれくらい電話をするか、ビデオを見るか、操作するかといった基準を決めて使うことになります。今もiPhoneなどで「何時間」と謳っていると思いますが、そういった基準で考えています。
Appleも先ほど言ったようにバッテリーの持続時間を意図的に短くしているわけではなく、莫大なお金をかけてカスタムしたり、大量にパーツを発注してメーカーに特別仕様にしてもらったりした上で、提供する機能の方が上回ってしまうため持たない、という状態なんです。しかし、僕らはそんなことはできないので、基本的には既存のものを組み合わせているだけなので、省電力化はなかなか難しいんですよ。
うん。
そうなると、何をしようかと考えたとき、バッテリーの容量を増やすしかないんですよね。バッテリーの容量って、基本的にサイズが大きくなればなるほど持続時間は長くなるんですよ。
そうなんですね。
その当時、スマートフォンはiPhoneも含めて薄型化が進んでいました。今回、AppleがiPhone Airという薄いモデルを出してきたのを見ると、「まだまだ薄型化を進めるつもりなんだな」と感じます。しかし、僕はそんなに薄くして本当に良いのかという疑問があります。薄いと実際に持ちにくいんですよ。手のひらで握った時の設置面積が少なくなるため、ホールド感が悪くなるんです。
実際、僕が今使っているiPad ProのM4は今回のiPhone Airよりもさらに薄くて、超持ちにくいです。結局ケースに入れることになってしまいます。薄くすればするほどバッテリーのサイズは小さくなるので、そこは不利になる点ですね。ただ、先ほども言ったように、Appleや他の大手メーカーは、様々な方法で省電力化を進めることで、ある程度のバッテリー持続時間を確保しています。
我々にはそれができないため、バッテリー自体を大きくすることにしていたんです。当時、10ミリ、つまり1センチ以下のスマートフォンしか出回っていませんでしたが、僕は「関係ない」と思っていました。むしろ分厚くなってもいいからバッテリーが持つ方が良いと考え、最終的には11ミリから12ミリ程度の厚さになりました。
はい。
当時はそういう企画をすることが世界中でなかったらしくて。おじさんも、もう長いことそんなの作ったことないし、「売れないんじゃない?」みたいなことを言ってたんですけれども。僕としてはこのコンセプトは持ちやすさとバッテリーライフの両方メリットを享受できるので絶対いいっていう信念があったので、押し切りました。
ほうほう。
スマートフォンは薄くなっていく傾向にありますが、トリニティはケースを売ってますけど、トリニティのケースを付けると10ミリ以上になってしまいますよね。逆に、NuAns NEOはケースが一体型というコンセプトだったので、ケース込みで10ミリ以上(実際には11.3mm)になるように設計されていました。結果として、実際使っている感じでは、そんなに違いはないんじゃないかなと思っていました。
ほとんどの人はケースなしでスマートフォンのスペックを語りがちですが、結局のところ、多くの人がケースを使いながら日常を過ごしています。そのため、ケース込みとケースなしとで厚さに大きな差はないですし、バッテリーの持ちが良いことの方が本当に重要だと考えていました。
最終的にTENTのデザインも丸みを帯びたものになりました。一瞬iPhoneもiPhone 6くらいから丸みを帯びてきたんですが、それ以前は直線的なデザインでした。最近また直線的なデザインに戻ったので、今はすごく持ちにくいと僕は感じています。
永山さん、一番苦労したのは「技適」かな。
はい。
日本で携帯電話とか携帯のネットワークにつながるようなスマートフォンなり、そういう製品を売る時に一番大変なのは、日本の電波法に合わせて「技術基準適合証明」ってですね、技適っていうのがね、必要になるんですね。
はい。
もちろん理由があって、電波は公共のものだから、適当に作って他のものに影響を与えたりしないようにしないといけない、といったことや、出力は人体にあまり影響があってはいけない、といったことがありますね。
うん。
この件で少し難しいのは、中国で製品を作ってくれる会社は日本にいないので、簡単にテストができないことなんです。もちろん超大手企業であれば、何かしらシミュレーションができるような設備があるのだろうと思いますが、僕らの場合、中国の会社が設計・テストして「大丈夫だよ」と言われても、彼らは日本の電波を実際に受けているわけではないので、受信できるかどうか、どのくらいの感度なのかは分かりません。
日本にもラボはあって、借りるのにすごく高い費用がかかるのですが、そこでテストを行なったりするんですよね。細かい話をすると長くなってしまうのですが、僕はあまり苦労していなくて、永山さんがすごく苦労してやってくれました。
ただ、iPhoneなども含め、金属製iPhoneが登場するとみんなが真似をするような、時代の流れだったのですが、当時は金属製のものが多かったんです。金属はやはり電波に影響してしまうので、難しいんですよ。なので今も、Appleがガラス製にしたというのも、実際はやはり電波のところが大きかったのだと思っています。
はい。
なので我々のはプラスチック樹脂だったので、電波としては環境はより良かったかなと思ってます。
うん。
実際ですね、おサイフケータイって世の中にあって、iPhoneも結構後になりましたけれども、Suicaや電子マネーが使えるようになりましたね。Windows 10 Mobileは一つ、弱点としてこういったおサイフケータイがまったく使えなかったんですよ。
はい。
これって日本独自じゃないですか。特に初期のマイクロソフトがこの機能を入れようとはならなかったと思うんです。スマホには、標準でそういった機能を入れられる土壌がなかったんですよね。
うん。
とはいえ、Suicaで電車に乗ることもあったので、当時、今よりもかなりカードで乗っている人のほうが多かったんですよね。なので、NuAns NEOは背面のケースの内側にカードが1枚入るような設計にしていました。物理的なおサイフケータイのような感じです。
iPhoneの時も背面にSuicaのカードを入れられるケースを出したりしていたので、アクセサリーメーカーとしては当然そういった発想で形にしていたんです。
はい。
今までのスマートフォンで、最初からケースが一体化していて、なおかつSuicaのカードが入るというのは、僕がiPhoneアクセサリーに携わっていなければ、あまり思いつかなかっただろうなと思っています。さらに言うと、スマートフォンを初めて作ったからこそ、「そこが足りないの? 一体何だろう?」となった時に、Suicaのカードそのものだと残高が分からないんですよ。あとは履歴が分かったらいいなと思って。
うん。
Windows 10とそのWindows 10 Mobileの両方でちゃんと動作するプラットフォームがあります。Universal Windows Platform(UWP)という規格があって、それにのっとって「TriCa」という残高と履歴が読み取れるカードリーダーアプリまでリリースしたんです。
へぇ。
しっかりアプリまで作れたというのは、他のメーカーにはできなかったことだと僕は思っています。背中にSuicaを入れるといっても、それだけで終わってしまっては面白くないし、使い勝手も悪いですからね。残高がわからないと、いざ乗ろうとした時に乗れない、なんてこともあります。
このUWPにすると、ホーム画面で残高が見えるようになるんですよ。履歴もちゃんと確認できて、アプリを起動すれば、書き出しもできるような形にしたんです。この話は、本当に話し出すとすごく長くなるくらいで、このアプリ作りもなかなか大変でしたけど、面白かったですね。ここまで全部できたというのは、一つ誇りに思えるところだと僕は思います。
うん。
あと何か、テクノロジー系で聞きたいことあります?
テクノロジーで?
いや、なんで聞いているかというと、今回の発表のところまで話をしようと思ったんだけれども、ここまで話していて、まだデザインの話全然してないんで。次にデザインの話になるんだけれど、これも時間的にはもう来週になるなと思って。「テクノロジー系、何かあるのかな?」と思ってね。
いや、さっき言った「技適」のところがあるんだっていうのを初めて知って、「ああ、そういうことは大変なんだな」っていうぐらいのレベル感なので、知識的に。
そうですね、やはりかなり難しいので、小さい会社が携帯を作るというのは相当難しいだろうと思いますね。
いや、そこがすごいですよね。大抵の人はそう思い込んでやらないのですが、動き出してからその感想に辿り着くというのが天才ですよね(笑)
まあ、やる前にここまで大変だとは思ってはなかったです。正直。
そうですね。
実際、永山さんがすごく苦労されたんですよね。だからこそ、永山さんがいなければスマホを出すことはできなかったと思っています。
これはスマートフォンを作ろうと思った時には、もう頭の中に永山さんがいるから、「最後は大丈夫かな」みたいなのもあったということですか?
そうですね。実際は永山さんには、やるかやらないか決めてから声をかけたんです。もし断られたらどうしようかなというのは、無鉄砲なのかもしれないですが、あまり考えていませんでした。永山さんを口説けると思ってたのかな。自分でもよく分からないんですが。
永山さんは天邪鬼なところもありつつも、きっとこのプロジェクトを面白いと思ってくれるだろうと、ずっと思っていました。
たった7人ですよね。7人の侍。
そうですね。中国のソフィアは写真に入っていません。写真では6人となっていますが、実際は中国のソフィアも相当頑張ってくれました。あさすけも含め、僕も何度、向こうで日付をまたいで夜を過ごしたことか。
これやっぱり7人でやったのも結構良かったんじゃないですか。少数でやったからうまくいったってのもありますよね。
そうですね。永山さん本当に今言えないことも含めて天才過ぎて、本当にこの人とこのプロジェクトができて本当に良かったと思います。次回はデザインのことや、可能であれば発表のところまでもお話したいなと思ってます。
発表までってことは、ちょっとマーケ的なところということなんですかね。
そうですね。
了解です。
ってことで、今回はここまでにさせてもらいたいと思います。また来週よろしくお願いします。
ありがとうございます。
「リアル経営|企業経営の成功と失敗。等身大で語る台本なき社長のリアル」
概要欄にこの番組のWebサイトへのリンクを張っております。 感想、メッセージ、リクエストなどそちらからいただければ嬉しいです。
毎週金曜朝6時配信です。ぜひフォローお願いします。
ここまでの相手は、Hossyこと星川哲視と
がじろうでした。
それではまた来週、お耳にかかりましょう。
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